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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第4章 四
その日の朝、お民は〝本邸〟と呼ばれる母家(おもや)の座敷にいた。
石澤家には大勢の奉公人がいるが、そういった使用人を除けば、当主の嘉門、その母祥月院二人きりである。
お民の場合、昼食と夕食は離れにおいて一人で取るが、朝餉のみは母家で取ることが習わしとなっている。そのときのみは嘉門、祥月院とお民の三人が顔を揃えることになった。
離れで一人、食事を取るといっても、お民一人というわけではない。恐らく監視の役目もかねているのではあろうが、傍には常に一人から二人の侍女が付き従っており、食事の際の給仕などはすべてお付きの侍女が行うのだ。
たまには夕刻に嘉門がふらりと思い出したように訪ねてきて、二人で夕餉を取ることもあった。
そんな時、お民は特に何を話すわけでもなく、ひたすら黙々と食事を取ることに集中する。嘉門もまた、時折、思いついたようにポツリと他愛もないことを話題にし、お民からの反応が返らずとも不機嫌になることもない。
話の合間に、嘉門が自分の方をじいっと見つめていることに気付いていないわけではないけれど、お民としては自分の方から進んで嘉門の話に付き合おうとも付き合いたいとも思わなかった。
これが相手が源治であれば、その日に起こった些細なことを互いに面白おかしく喋り合い、賑やかに食事を取ったものだった。やれ近所の犬が子を生んだの、若い大工が意中の娘にフラレただのと実にありふれた世間話でさえも、お民は何でも聞きたがり、眼を輝かせて源治の話に耳を傾けたものだ。
どんな環境に陥ったとしても、その場所で自分なりに自分にできることに力を尽くすべきだ―、それが信条のお民も流石に離れに閉じ込められ、夜毎、男の慰みものにされるだけの日々では、希望も持ち前の明るさも失ってしまうのは致し方なかった。
その朝も嘉門が上座に端座し、それよりやや離れた下座に祥月院、祥月院と向かい合うような形で一歩下がった場所にお民が座っていた。
給仕をするための侍女が一人、次の間に控えている他は、三人だけの朝食である。