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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第4章 四
「お引き止め致しまして、申し訳ございませぬ。お羽織にこのようなゴミがついておりましたゆえ」
 懐から懐紙を取り出し、さっとゴミを包んでまた、しまうのを見、嘉門が小さく頷いた。
「あい済まぬ。よう気が付いてくれた」
 人前で―特にこの母親の前で感情を露わにすることのない男が嬉しげに笑っていた。
 そんな息子をちらりと見た祥月院が柳眉をひそめた。
「お民どの、その〝旦那さま〟という呼び方は聞き捨てなりませぬな。いかにも囲われ者のようゆえ、そのような町方の者があるじを呼ぶような嫌らしい呼び方はお止めなされ。まァ、とは申しても、囲われ者といえば、そなたは側女、確かに囲われ者には違いございませんでしょうがのう」
 その時、嘉門の鋭い声が祥月院の延々と続く嫌みを遮った。
「良い加減にお止めなされませ。先刻のふるまいからご覧あそばされてもお判りのごとく、お民は心利きたる女子にて、よく気の付く者にございます。回りくどい小言を並べ立てずとも、そのような呼び方が良くないと申し聞かせれば、すぐにお言い付けに従うでしょう。母上こそ、傍で聞いておる私の方がいささか聞き苦しうございますぞ。そのようにねちねちと愚痴とも嫌味とも知れぬことばかり仰せになっておられては、姑が嫁いびりを致しておると他人(ひと)の眼に映っても致し方ございませんでしょうな」
「な、何と、この私が嫁いびりをしておると―?」
 祥月院の美しい面がみるみる怒りに染まる。
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