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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第4章 四
「それは、あくまでもここに来る前の話であろう? そなたを哀しませたくはなかったから、このことは言うまいと思うていたが、そなたがそこまで俺を拒むというのであれば、俺も申そう。お民、そなたの身体はこの俺に既に慣れ親しんでいることに、そなたは気付いておらぬのか? そなたが仮に今、その男の許に戻ったとしても、最早、元どおりに、昔のように共に暮らせるはずがない。俺に抱かれることに馴れ切ったそなたは必ずや俺を求めるはずだ。そして、そなたの恋しい男はそんなお前を必ず憎むようになるだろう。他の男に数え切れぬほど抱かれたそなたを男はけして以前のように受け容れはしない」
「―」
 お民の眼に涙が溢れる。あまりにも酷い科白だった。
 嘉門がお民を冷めた眼で見つめ、断じた。
「その男がそなたに何を申したかは知らぬ。さりながら、そんなのは所詮、綺麗事にすぎぬ。もし、俺がその男であったとしても、他の男に自ら脚を開くようになった女を昔と同じようには愛せないだろう。きっと、その女を許せず、しまいには憎む。よく考えてみるが良い、男に疎まれ憎まれてもなお、そなたは男の許にとどまり続けられるのか。惚れた男を嫉妬という生き地獄の苦しみへと追い込み、自らも愛と憎しみの間でもがき苦しむことが判っていながら、それでもなお、そなたは男の許に戻るというのか? ここにいれば、そのような無用の苦しみを感じることもなく、俺の傍で何不自由のない暮らしが送れる。そなたが望めば、正式な室に直しても良い。そなたは俺の子を生み、俺の妻として生きてゆくのだ」
「もし、どうしても」
 お民は濡れた瞳を嘉門に向けた。
 幾ばくかの逡巡を見せ、口を開く。
「もし、どうしても、一年を過ぎてもここにとどまれと仰せになられるのであれば、私は自ら生命を絶ちます。たとえ生きながら焼き殺されようとも、私は殿のご命令に従うことはできませぬ」
 覚悟を秘めたその瞳の悲愴なまでの輝き―、そのときの自分の何もかもが嘉門を魅了していることに、迂闊にもお民は気付いてはいなかった。
「俺はそこまでひどい男ではないつもりだが」
 嘉門はフッと自嘲気味に笑った。
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