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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第5章 伍
 一糸まとわぬ姿で絡み合っていた二人の耳に、金属質な高い声が聞こえ、更に続いて、狼狽える侍女の声が聞こえた。
「お待ち下さいませ、ただ今、取り込み中でございます。今しばらくのご猶予を」
「何が取り込み中だと申すのじゃ。このような時刻に、まさか布団を被って寝ているわけでもなかろう」
 居間を隔てた控えの間でしばらく押し問答があり、やがて、音を立てて襖が開いた。
「祥月院じゃ、入りますぞ。この頃、具合悪しきと聞くが、いかがか―」
 ふっと言葉が止む。
 一瞬の後、部屋内にひろがる光景を眼の辺りにした祥月院は蒼褪めた。
「これは、一体いかなることか」
 寝乱れた褥の上にはお民が素肌に白い布を巻きつけただけのしどけない姿で座っており、その傍らで上半身裸の嘉門が怖ろしく不機嫌な表情で胡座をかいている。
「殿、これはいかなるご了見にございましょうや? この時間には表におわすはずの殿が側女の許に―しかも、その女子と同衾しているなぞとは」
 祥月院は口にするのもおぞましいというように形の良い眉を寄せた。
「申し訳ございませぬ。―すべて、私が至らぬせいにございます」
 お民は端座し、両手をついて深々と頭を下げた。
「そのようなこと、そなたがわざわざ申さずとも承知しておるわ。大方、そなたが淫らにも殿にしなだれかかり、殿をこのような時間までお引き止めしておったのであろう」
 祥月院が我が意を得たりとばかりに頷くと、
「それは違いまする」
 と嘉門が脇からむっつりと言った。
「私がここにとどまりましたのは、何もこの者に頼まれたからではございませぬ。私自身がお民を抱きたい、欲しいと思うたゆえにございます」
「ああ、何と嘆かわしい。この由緒ある石澤家の当主が人前で、しかも母の前で、そのようなあからさまな物言いをなさるとは。全く、いやらしい!」
 祥月院の怒りは凄まじく、嘉門のそのひと言でますます、煽られているようでもある。
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