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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第5章 伍
「どれ、見せてみなされ」
片手をつと伸ばし、お民の腹の辺りをそっと触った。手触りを確かめるように手を何度かすべらせた後、嘉門に向き直る。
「母上、お民に何をなさるおつもりでござりますか」
抗議の口調で言うのに、祥月院は取り合わず断じた。
「何ゆえ、このようになるまで放っておいたのですか、医者には診せたのでございますか」
「い、いえ」
嘉門が途端に口ごもる。
「武家の暮らしはこれまでと勝手が異なりますゆえ、馴染むのに刻がかかりまする。それゆえの気疲れかと」
いつになく歯切れの悪い物言いで応えた。
祥月院は呆れたように言った。
「そなたがお民どのを医者に診せなんだのは、お民どのと閨を共にするを止めだてされると思うてのことでありましょう」
祥月院は小さく首を振り、嘉門をひたと見据えた。
「お民どのがこのような状態になったのは、いつ頃からにございますか」
「は、確か、ひと月ばかり前からにございます。吐き気がするゆえ、食あたりやもしれぬと当人は申しておりましたが」
嘉門がふて腐れたように応える。
祥月院は静かに告げた。
「お民どのを今日中に医者にお診せなさいませ」
「しかし―」
まだ嘉門が何か言いたげに口を尖らせるのを祥月院は一喝した。
「一時の快楽に我を忘れては、大切な物を失うことになりましょうぞ。殿、このまま、お民どのを放っておいては、生命に関わりますぞ」
「―母上、それは」
嘉門の端整な面に烈しい愕きがひろがった。
「眼をしかと覚ましなされ。このままでは、お民どのは弱っていくばかりじゃ。そなたは惚れた女子のみでなく、やっと恵まれた世継をも失うことになりかねます」
そのひと言で、嘉門も漸く合点がいったようだ。
「では、母上は、お民が私の子を身ごもっていると?」
嘉門はわずかに視線を揺らし、口ごもった。
片手をつと伸ばし、お民の腹の辺りをそっと触った。手触りを確かめるように手を何度かすべらせた後、嘉門に向き直る。
「母上、お民に何をなさるおつもりでござりますか」
抗議の口調で言うのに、祥月院は取り合わず断じた。
「何ゆえ、このようになるまで放っておいたのですか、医者には診せたのでございますか」
「い、いえ」
嘉門が途端に口ごもる。
「武家の暮らしはこれまでと勝手が異なりますゆえ、馴染むのに刻がかかりまする。それゆえの気疲れかと」
いつになく歯切れの悪い物言いで応えた。
祥月院は呆れたように言った。
「そなたがお民どのを医者に診せなんだのは、お民どのと閨を共にするを止めだてされると思うてのことでありましょう」
祥月院は小さく首を振り、嘉門をひたと見据えた。
「お民どのがこのような状態になったのは、いつ頃からにございますか」
「は、確か、ひと月ばかり前からにございます。吐き気がするゆえ、食あたりやもしれぬと当人は申しておりましたが」
嘉門がふて腐れたように応える。
祥月院は静かに告げた。
「お民どのを今日中に医者にお診せなさいませ」
「しかし―」
まだ嘉門が何か言いたげに口を尖らせるのを祥月院は一喝した。
「一時の快楽に我を忘れては、大切な物を失うことになりましょうぞ。殿、このまま、お民どのを放っておいては、生命に関わりますぞ」
「―母上、それは」
嘉門の端整な面に烈しい愕きがひろがった。
「眼をしかと覚ましなされ。このままでは、お民どのは弱っていくばかりじゃ。そなたは惚れた女子のみでなく、やっと恵まれた世継をも失うことになりかねます」
そのひと言で、嘉門も漸く合点がいったようだ。
「では、母上は、お民が私の子を身ごもっていると?」
嘉門はわずかに視線を揺らし、口ごもった。