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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第5章 伍
そのふた月後。
お民は夜半にふとめざめた。
また、悪夢にうなされていたのだ。
身ごもったことが判ってからも、お民はしばしば、夢に悩まされた。
得体の知れぬ黒い大きな影に追いかけられる夢。焔に灼き尽くされようとする夢。
どれも禍々しく、不吉なものばかりであった。
最近、嘉門は夜よりも昼間に姿を見せることが多い。医者と祥月院から、弱り切ったお民と褥を共にするのを止められているからだ。
時折、嘉門が欲情に翳った眼でお民を見つめたり、手を伸ばしかけるときはあったが、流石に、これ以上房事を続ければ、お民どころか子の生命にまで拘わる―と宣告されれば、伸ばしかけた手を引っ込めないわけにもゆかないらしかった。
夜の務めから解放されてからというもの、お民は日毎に体力を取り戻し、腹の子が五ヵ月に入る頃には、あれほどひどかった悪阻もぴたりと治まり食欲も戻った。
今では、以前と変わりないほどまでに健康を取り戻している。恐らく、嘉門との夜毎の荒淫は、お民の身体だけではなく心をも相当に蝕んでいたのだろう。
妊娠六ヵ月めを迎えた現在、お民の腹はふっくらと丸く膨らんできて、帯を締めていても、ひとめでそれと判るようになった。時折、腹の子が腹壁を蹴るのさえ自覚できる。
しかし、腹の子が順調に育っていることは、お民に何の感慨ももたらさなかった。
嘉門に慰みものにされ続けた汚辱の証明、毎夜、脚腰も立たぬほど容赦なく責め立てられた辛さや哀しさはいまだに消えやらず、お民を苦しめる。
そう思えば、愛着どころか、かえって厭わしさすら感じるほどだ。
お民はつと立ち上がり、褥から出た。部屋の障子戸を開き、静かに佇む。
紫紺の空に紅い月が掛かっていた。
赤く熟した果実の豊潤な香りが鼻腔をくすぐる。
この季節、庭の石榴は実りの瞬間(とき)を迎えていた。毒々しいほどに紅い実が幾つも鈴なりになっている樹を、お民はしばらくの間、見上げていた。
お民は夜半にふとめざめた。
また、悪夢にうなされていたのだ。
身ごもったことが判ってからも、お民はしばしば、夢に悩まされた。
得体の知れぬ黒い大きな影に追いかけられる夢。焔に灼き尽くされようとする夢。
どれも禍々しく、不吉なものばかりであった。
最近、嘉門は夜よりも昼間に姿を見せることが多い。医者と祥月院から、弱り切ったお民と褥を共にするのを止められているからだ。
時折、嘉門が欲情に翳った眼でお民を見つめたり、手を伸ばしかけるときはあったが、流石に、これ以上房事を続ければ、お民どころか子の生命にまで拘わる―と宣告されれば、伸ばしかけた手を引っ込めないわけにもゆかないらしかった。
夜の務めから解放されてからというもの、お民は日毎に体力を取り戻し、腹の子が五ヵ月に入る頃には、あれほどひどかった悪阻もぴたりと治まり食欲も戻った。
今では、以前と変わりないほどまでに健康を取り戻している。恐らく、嘉門との夜毎の荒淫は、お民の身体だけではなく心をも相当に蝕んでいたのだろう。
妊娠六ヵ月めを迎えた現在、お民の腹はふっくらと丸く膨らんできて、帯を締めていても、ひとめでそれと判るようになった。時折、腹の子が腹壁を蹴るのさえ自覚できる。
しかし、腹の子が順調に育っていることは、お民に何の感慨ももたらさなかった。
嘉門に慰みものにされ続けた汚辱の証明、毎夜、脚腰も立たぬほど容赦なく責め立てられた辛さや哀しさはいまだに消えやらず、お民を苦しめる。
そう思えば、愛着どころか、かえって厭わしさすら感じるほどだ。
お民はつと立ち上がり、褥から出た。部屋の障子戸を開き、静かに佇む。
紫紺の空に紅い月が掛かっていた。
赤く熟した果実の豊潤な香りが鼻腔をくすぐる。
この季節、庭の石榴は実りの瞬間(とき)を迎えていた。毒々しいほどに紅い実が幾つも鈴なりになっている樹を、お民はしばらくの間、見上げていた。