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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第1章 壱
 三門屋そのものは小体な店である。しかし、この男はお民にかつて妾奉公の話を持ちかけたように、若い女や娘に身売りを勧め、旗本屋敷だけではなく遊廓や岡場所にまで女を斡旋して、まるで女衒紛いのことまでしているらしい。真っ当な口入れ屋稼業だけでは、こうまで羽振りが良いのも面妖だといつか誰かが話していたが、全く道理に適った理屈だといえる。
「こんにちは」
 暖簾をかき分けながら声をかけると、入ってすぐの帳場に座っていた男が細い眼を光らせた。
「これは、お民さんじゃア、ありませんか。そろそろ来る頃かと待っていたんですよ」
 信吾は如才なく言うと、身軽に立ち上がり、こちらに向かって歩いてくる。
 昼前とて、いつもは客がちらほら見える店内には、目立った人影はなかった。最奥の方でひそやかな話し声が聞こえているところからすると、大方、話し合いが行われているに相違ない。
 小柄ではあるが、つり上がった細い眼で白いのっぺりとした面の信吾を世間では〝男前〟という女もいるらしいが、お民はこんな生っ白い軟弱な男は真っ平ご免だ。
―まるで半ペンが羽織を着て澄まして歩いているようで、厭なんですよ。
 いつか源治に言ってやったら、源治は〝そいつは良いや。違えねえ〟と腹を抱えて大笑いしていた。
 以来、三門屋のことを二人は〝半ペン〟と呼んでいる。
 今日の三門屋は目くら縞の濃紺の紬の羽織、着物を身に纏っている。当人は似合っているつもりだろうが、身体の小さい三門屋には少し仕立てが大きすぎると見え、身体が着物の中で泳いでいるようで、滑稽だ。
 思わず吹き出したいのを我慢していると、三門屋が顎をしゃくった。
「丁度、良いところに来たようだね」
 呟くと、改めて後ろを振り返り、人が変わったように丁重な口調で言った。
「石澤の旦那さま、しばらくお待ち頂いても差し支えございませんでしょうか」
 廊下を入ってすぐの座敷には誰かいるようで、三門屋はその人物に声をかけている。
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