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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第6章 第2話・壱
この徳平店の大家惣右衛はが商売がうまくゆかず、方々に多額の負債を抱えていた。それを知った口入れ屋三門屋信吾がかねてからお民を見初めていた嘉門に入れ知恵を授けたのだ。徳平店の建つ土地を嘉門が買い取り、徳平店を取り壊すと言い出した。それを阻止するための条件として、お民を一年の期限つきで嘉門に側室として差し出すように命じたのである。
その時、源治は烈火のごとく憤った。それは何も源治でなくとも、当然のことであったろう。突如として自分の女房を取り上げられ、しかも自分たちの暮らす長屋の取り壊しを条件に差し出せと言われて、大人しく従う男はいるまい。
源治はあの時、お民に言った。
―他の連中のことなんぞ気にすることはねぇ。どこかに引っ越して、お前は知らん顔をしていれば良い。
だが、お民にとってこの裏店は九年間、住み慣れた懐かしい我が家であった。ここで最初の良人兵助との新婚生活を過ごし、兵太という愛し子を授かり、また失った。幾ら我が身が助かりたい一心からとはいっても、徳平店の人々を見捨てて、自分だけがのうのうと別の場所に逃げて生き存えることはできなかった。
結局、お民は嘉門の許に上がる道を選んだ。あのときの源治の落ち込み様は、当人のお民の方が見ていられないほどだった。
その時、源治は烈火のごとく憤った。それは何も源治でなくとも、当然のことであったろう。突如として自分の女房を取り上げられ、しかも自分たちの暮らす長屋の取り壊しを条件に差し出せと言われて、大人しく従う男はいるまい。
源治はあの時、お民に言った。
―他の連中のことなんぞ気にすることはねぇ。どこかに引っ越して、お前は知らん顔をしていれば良い。
だが、お民にとってこの裏店は九年間、住み慣れた懐かしい我が家であった。ここで最初の良人兵助との新婚生活を過ごし、兵太という愛し子を授かり、また失った。幾ら我が身が助かりたい一心からとはいっても、徳平店の人々を見捨てて、自分だけがのうのうと別の場所に逃げて生き存えることはできなかった。
結局、お民は嘉門の許に上がる道を選んだ。あのときの源治の落ち込み様は、当人のお民の方が見ていられないほどだった。