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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第6章 第2話・壱
そして、今、嘉門の許から無事帰ってきたお民は、こうして良人と共に表面だけは何も変わらぬ毎日を過ごしている。
 嘉門の許で送った日々は、まさに思い出したくもないような地獄であった。嘉門のお民への執着と寵愛は並々ならぬものがあり、扱いそのものは五百石の当主の寵姫として身を綺羅で飾り、豪奢な部屋に住み、何一つ不自由のないものであった。しかし、近隣の住人たちからは半ば蔑みを込めて〝妾御殿〟と呼ばれる離れに住まわされ、夜毎、嘉門の慰みものにされた日々はまさに快楽地獄に囚われ続けた日々の繰り返しであった。
 お民は一年という約定よりは随分と早く返されてきた。嘉門の許にいたのは八ヵ月ほどの間のことだ。その間、お民は嘉門の望んだどおり、嘉門の子を宿した。が、子は半年ほどで流れ、流産したお民は暇を出され石澤の屋敷から徳平店に帰されてきたのだ。
 あれから半年が経った。お民が嘉門の屋敷に上がって丁度一年が経とうとしている。たったの一年がその何十倍にも感じられるほど、様々なことがありすぎるほどあった一年間であった。
 それでも、お民はとにかくこうして良人の側にいる。今、この瞬間、心から求め必要とする男の腕に抱かれ、この男の温もりに好きなだけ身を委ねることができる。それがどれほど幸せなことか。嘉門の許で過ごした悪夢のような日々を思うにつけ、今の生活はたとえその日暮らしの貧しさでも極楽にいるようなものだと思うのだった。
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