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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第6章 第2話・壱
だが。お民には、けして源治にさえも打ち明けられぬ葛藤があった。―否、源治であればこそ、訴えられぬ悩みだ。嘉門の許から帰ってきてひと月ほど、源治はけしてお民に触れようとしなかった。最初、良人は他の男の慰みものになった女を最早以前のように受け容れてはくれないのかと思った。
哀しいし、辛いことだけれど、それは当たり前のことだとも。ただの間違いで片付けてしまうには、お民は嘉門の許に長居をしすぎた。それがけして、お民自身が心から望んだものではなかっとしても、源治が嘉門にさんざん穢されたこの身体を厭わしいものだと感じてしまったとしても致し方ない。
やはり、自分はここに戻ってこられない、戻ってはならない身だったのだ。そう思って、出ていくことを考えたときもあった。が、お民の不安は杞憂であったらしい。お民が源治との別離をいつ切りだそうかと懊悩していたある夜、源治は傍らのお民の布団にすべり込んできた。以来、以前のように源治とお民は臥所を共にしている。
とはいえ、お民の方がこの頃では、二、三日に一度の良人の求めに引き気味になっていた。むろん、絶対に態度にも口にも出せぬことだ。どんなに気が進まなくても、お民は源治が求めてきたときには、素直に身を任せていた。
男の舌が口中に割り込んでくる。歯茎を丹念になぞられる。お民はこの頃、違和感を憶えることがあった。以前はけして荒々しくも執拗でもなかった良人の愛撫が微妙に変化している。昔の源治であれば、お民が呼吸もできないような乱暴さで口づけを延々と続けることはなかった。
自分の中の形容しがたい想いが、もしや良人に気取られているのか。こんな時、お民はぎくりとしてしまう。源治は見かけは寡黙で何を考えているか知れぬところがあるが、存外に勘が鋭い。お民の心なぞとうに見抜いているのかもしれない。
源治の舌がお民の舌を追いかけてくる。が、寸でのところで、お民は逃げた。それでも、源治は舌を絡ませようと躍起になる。
―いやっ。
お民は咄嗟に心の中で叫び、顔を背けた。
「お民―」
源治の声が心もち低くなる。
再びのしかかってこようとした男の身体を両手で押し戻し、お民は上半身を床に起こそうとした。
哀しいし、辛いことだけれど、それは当たり前のことだとも。ただの間違いで片付けてしまうには、お民は嘉門の許に長居をしすぎた。それがけして、お民自身が心から望んだものではなかっとしても、源治が嘉門にさんざん穢されたこの身体を厭わしいものだと感じてしまったとしても致し方ない。
やはり、自分はここに戻ってこられない、戻ってはならない身だったのだ。そう思って、出ていくことを考えたときもあった。が、お民の不安は杞憂であったらしい。お民が源治との別離をいつ切りだそうかと懊悩していたある夜、源治は傍らのお民の布団にすべり込んできた。以来、以前のように源治とお民は臥所を共にしている。
とはいえ、お民の方がこの頃では、二、三日に一度の良人の求めに引き気味になっていた。むろん、絶対に態度にも口にも出せぬことだ。どんなに気が進まなくても、お民は源治が求めてきたときには、素直に身を任せていた。
男の舌が口中に割り込んでくる。歯茎を丹念になぞられる。お民はこの頃、違和感を憶えることがあった。以前はけして荒々しくも執拗でもなかった良人の愛撫が微妙に変化している。昔の源治であれば、お民が呼吸もできないような乱暴さで口づけを延々と続けることはなかった。
自分の中の形容しがたい想いが、もしや良人に気取られているのか。こんな時、お民はぎくりとしてしまう。源治は見かけは寡黙で何を考えているか知れぬところがあるが、存外に勘が鋭い。お民の心なぞとうに見抜いているのかもしれない。
源治の舌がお民の舌を追いかけてくる。が、寸でのところで、お民は逃げた。それでも、源治は舌を絡ませようと躍起になる。
―いやっ。
お民は咄嗟に心の中で叫び、顔を背けた。
「お民―」
源治の声が心もち低くなる。
再びのしかかってこようとした男の身体を両手で押し戻し、お民は上半身を床に起こそうとした。