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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第6章 第2話・壱
「ごめんなさい」
 ただ謝ることしかできなくて、お民はまるで壊れてしまったからくり人形のように同じ科白を繰り返す。
「俺が聞きてえのは詫びの言葉なんぞじゃねえッ。何で、お前が俺をそんな風に拒絶するのか、その理由を知りてえんだよ」
 お民は潤んだ瞳で源治を見上げた。
 涙を露のように含んだ黒い瞳が煌めいている。
「お民」
 源治がお民を眩しげに見つめる。
「お前は本当にきれいになったな。なっ、厭がらねえで、大人しくしてくれよ」
 源治が突如としてお民を抱きすくめようとした。お民は予期せぬ良人の行動に烈しく狼狽えた。
「ねえ、お前さん、今夜だけは止めて、お願いだから今日だけは許して」
 お民は抗いながら、源治に哀願した。
 と、源治の手が急に離れた。
 気まずくなるほどの長い沈黙が落ちた。
 お民はただ唇を噛みしめて、うなだれていた。源治が刺すような鋭い視線でこちらを見ているのが判る。
 言い訳をすることもできず、許されず、お民はまるで代官の前に引き立てられた科人のようにうつむいて座っているしかない。
「俺が気付いてなかったとでも思ってるのか」
 唐突に沈黙を破ったのは源治だった。
 その言葉に、お民は弾かれたように顔を上げる。
「お前は最初から俺に抱かれるのを厭がってた。幾ら俺が色事にはからきし朴念仁でも、そこまで馬鹿じゃねえや」
 ポツリと呟いた後、源治が洩らした。
「どうしてなんだ、お民。やっぱり、駄目なのか? お前は、あの男に抱かれて、その味が忘れられなくなっちまったのか」
 ややあって、源治が吐いて捨てるように言った。
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