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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第6章 第2話・壱
「そう言やァ、あの石澤の殿さまってえのは若え頃は吉原の太夫とも派手な浮き名を流したっていうし、深川の売れっ妓芸者をどこぞの大店の若旦那とあい争ったこともあるとか聞いたな。マ、相手にしてきたのは素人女じゃなくて玄人女ばかりだとはいうが、相当の色好みで知られた奴らしい。あの殿さまが一時期、遊廓で好き放題に遊んでたのは結構有名な話だって聞いたぜ。―そんな女を歓ばせる丈を知り尽くした殿さまとさんざっぱら良い想いをしてきたんだ、お前が俺のようなつまらねえ男で物足りなくなっちまったとしても仕方ねえのかもな」
「―!」
お民はあまりの言葉に、何も言えなくなった。
惛い表情で自嘲するように呟く男の顔を、お民は茫然と見つめた。いつも春の陽溜まりのように笑っていた源治。包み込むように優しくお民を見つめていた源治がいつから、こんな表情をするようになったのだろう。
やはり、お民のせいなのか。
―私は、このひとの許に戻ってくるべきではなかったのかもしれない。
たとえ、どんなに戻りたいと思ったとしても。心がこの男を求めていたとしても、帰ってくるべきではなかったのかもしれない。
それでも、居たいと願ったのだ。もう二度と、源治の側を離れたくないと、自分の帰る場所は源治の側しかないと思い、帰ってきたのだ。
でも、それは間違いであったのだろう。
源治のことを心底から思うのであれば、恐らく、自分はここに戻ってくるべきではなかったのだ。幾ら心が変わらずとも、お民はもう以前の、源治と所帯を持ったばかりの頃のお民ではない。石澤嘉門の側室として嘉門にさんざん慰みものにされ、この身体は穢れ切っている。
たとえ言葉では何と言い繕おうと、その現実を変えることはできないのだ。多分、源治だって、態度にはおくびにも出さずとも、そのことを―女房が他の男の妾であったこと―を忘れることは片時たりともないだろう。いや、むしろ、お民が傍にいることで、余計に思い出したくもないことを思い出すのを強いられているのかもしれない。
源治を忘れられないからといって、ここに帰ってきてしまったのは、お民の我が儘というものだったのだ。
「―!」
お民はあまりの言葉に、何も言えなくなった。
惛い表情で自嘲するように呟く男の顔を、お民は茫然と見つめた。いつも春の陽溜まりのように笑っていた源治。包み込むように優しくお民を見つめていた源治がいつから、こんな表情をするようになったのだろう。
やはり、お民のせいなのか。
―私は、このひとの許に戻ってくるべきではなかったのかもしれない。
たとえ、どんなに戻りたいと思ったとしても。心がこの男を求めていたとしても、帰ってくるべきではなかったのかもしれない。
それでも、居たいと願ったのだ。もう二度と、源治の側を離れたくないと、自分の帰る場所は源治の側しかないと思い、帰ってきたのだ。
でも、それは間違いであったのだろう。
源治のことを心底から思うのであれば、恐らく、自分はここに戻ってくるべきではなかったのだ。幾ら心が変わらずとも、お民はもう以前の、源治と所帯を持ったばかりの頃のお民ではない。石澤嘉門の側室として嘉門にさんざん慰みものにされ、この身体は穢れ切っている。
たとえ言葉では何と言い繕おうと、その現実を変えることはできないのだ。多分、源治だって、態度にはおくびにも出さずとも、そのことを―女房が他の男の妾であったこと―を忘れることは片時たりともないだろう。いや、むしろ、お民が傍にいることで、余計に思い出したくもないことを思い出すのを強いられているのかもしれない。
源治を忘れられないからといって、ここに帰ってきてしまったのは、お民の我が儘というものだったのだ。