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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第6章 第2話・壱
 現に、源治に抱かれていても、嘉門との夜の記憶がふと浮かぶのは再々ではないか。その記憶の断片(かけら)がぽっかりと浮かび上がる度に、お民は源治の腕の中から逃げ出したい衝動に駆られてしまう。自分でも認めたくないことだけれど、馴染んだ嘉門の愛撫を懐かしいと思ってしまうときさえあるのだ。
 とうとう、お民の案じていたことが起こってしまった。源治はやはり気付いていたのだ。
 お民は無言で立ち上がった。
 源治は想いに沈んでいるようで、固い表情で唇を引き結んでいた。
 お民は哀しい気持ちで家を出た。腰高障子を閉め、深い夜の中を覚束ない脚取りで歩き出す。
 むろん、ゆく当てはなかった。幸いなことに、雨は大方止んでいた。しっとりと潤んだ春の雨ではなく、心を凍らせるような冷たい冬の雨。昨日一日、降り続いていた雨はそんな雨だった。
 あと半月もすれば、桜が咲こうかという時季になっているというのに、まるで真冬に逆戻りしたかのような陰鬱な鉛色の空を思い出し、お民は身震いした。
 当てもなく歩き続けている中に、いつしか和泉橋のたもとまで来ていた。何かあると、お民は必ずと言って良いほど、ここに来る。
 江戸の外れを流れる名もない川にかかる橋、この橋を渡り終えた先に、和泉橋町がある。石澤嘉門の屋敷を初め、大身の大名、旗本の屋敷が建ち並ぶ閑静な武家屋敷町だ。
 あの屋敷で過ごしたわずか八ヵ月ほどの日々が、お民の一生を大きく狂わせることになるとは、あの屋敷の門をくぐるまで、お民は想像だにしなかった。心さえ、自分の気持ちさえしっかりとしていれば、何も変わることはないと思っていた。
 たとえ嘉門の屋敷に上がっても、帰ってくるまで待ち続けると言ってくれた源治を信じ、源治の許に帰ってきたのだ。だが、世の中には許されることと、許されぬことがある。たとえ心が大切とはいっても、それだけでは済まされないこともあるのだと、お民は源治と再び一緒に暮らすようになって初めて知った。
 この橋一つを隔て、賑やかな商人たちの集う町、町人町と閑静な武家屋敷町、和泉橋町があい対峙している。嘉門の屋敷にゆく朝、ここで源治に涙の別れを告げたときのことを、お民は今更ながらに思い出していた。
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