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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第7章 第2話・弐
手に取って陽にかざすと、陽光を受けてキラキラと眩しく光り輝く。しかも、角度を少しずつ変える度に、飾りの蝶にはめ込まれた石が微妙に色合いを変えてゆく。ちょっと見た目には透明に見える石は、実はほのかに紅色がかっているようだった。
光の当たり方によっては石榴のように深い色、更には桜のように淡い色と変幻自在に色を変えるその様は、まるで手妻を見ているようだ。
お民がその美しくも儚い光の煌めきに見入っていた時、唐突に背後から声をかけられた。
「何か欲しいものがあれば、買ってやろうか」
この声は―。
お民はまるで地獄の底から甦ってきた死人を見たかのように凍りついた。
聞き憶えのあるどころか、耳に馴染んだ声は、紛れもなく石澤嘉門のものだ。
振り向いては駄目、絶対に振り向いてはいけない。
お民は自分に言い聞かせた。
何故、嘉門が突如としてこのような場所に現れたのかは判らない。が、自分にとっては、けして好もしい状況ではないことは確かだ。
「そんなにその簪が気に入ったのであれば、その品でも良いぞ」
いつしか嘉門が傍らに来て、懐から銭入れを取り出すのがかいま見えた。
「止めて下さい! そんなもの、私は要りません」
お民は悲鳴のような声で叫んだ。
そのただならぬ様子に、お民を取り巻いていた他の客―若い娘たちが一斉にお民を見る。
あまりの恥ずかしさに、お民は居たたまれなくなって、その場から逃れるように足早に歩き出した。その後から、嘉門がついてくる。
「そなたがどうしているのかとずっと気になっておってな。様子を見にきたのだが、その顔ではどうやら、あまり幸せではないらしい」
嘉門が悪魔のように魅惑的な声で囁く。
人を魅了するような深い声は変わっていない。
「どうだ、もう一度、俺に仕える気はないか」
予期せぬ誘いに、お民の歩みが止まった。
光の当たり方によっては石榴のように深い色、更には桜のように淡い色と変幻自在に色を変えるその様は、まるで手妻を見ているようだ。
お民がその美しくも儚い光の煌めきに見入っていた時、唐突に背後から声をかけられた。
「何か欲しいものがあれば、買ってやろうか」
この声は―。
お民はまるで地獄の底から甦ってきた死人を見たかのように凍りついた。
聞き憶えのあるどころか、耳に馴染んだ声は、紛れもなく石澤嘉門のものだ。
振り向いては駄目、絶対に振り向いてはいけない。
お民は自分に言い聞かせた。
何故、嘉門が突如としてこのような場所に現れたのかは判らない。が、自分にとっては、けして好もしい状況ではないことは確かだ。
「そんなにその簪が気に入ったのであれば、その品でも良いぞ」
いつしか嘉門が傍らに来て、懐から銭入れを取り出すのがかいま見えた。
「止めて下さい! そんなもの、私は要りません」
お民は悲鳴のような声で叫んだ。
そのただならぬ様子に、お民を取り巻いていた他の客―若い娘たちが一斉にお民を見る。
あまりの恥ずかしさに、お民は居たたまれなくなって、その場から逃れるように足早に歩き出した。その後から、嘉門がついてくる。
「そなたがどうしているのかとずっと気になっておってな。様子を見にきたのだが、その顔ではどうやら、あまり幸せではないらしい」
嘉門が悪魔のように魅惑的な声で囁く。
人を魅了するような深い声は変わっていない。
「どうだ、もう一度、俺に仕える気はないか」
予期せぬ誘いに、お民の歩みが止まった。