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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第7章 第2話・弐
 その言葉に、嘉門が切れ長の眼を瞠った。
「そなた―、今の亭主は二度目の男か。では、亡くなった倅というのは、その亭主の子か」
 流石に意外な事実に愕いたようだ。そのことで、お民は嘉門が実は、自分について何も知らないことを改めて思い出す。
 三門屋は嘉門に、お民が出産経験があることと、亭主がいることしか告げてはいなかったのだ。
「そなたもよくよく数奇な縁を辿ってきたようだな」
 嘉門が呟いたそのときのことだ。
「お民ッ」
 ふいに源治の声が響き、お民はハッと視線を動かした。
 いつしか町外れ、和泉橋の手前まで来ていた。
「手前、お民に何をしやがった」
 源治がいきり立って走ってくるのを、嘉門は面白い芝居でも見物するかのように眺めている。
 源治は和泉橋町の方から橋を渡ってきた。
「全っく、血の気の多い若造だな。お民が惚れている男だと聞いていたゆえ、どのような者かと思うておったが、何のことはない、ただのガキではないか」
 事もなげに言う嘉門を、源治が噛みつきそうな顔で睨めつけた。
「何だとォ。人の女房をさんざん好き放題に弄びやがった恥知らずは、お前だろうが!」
 嘉門と源治はむろん初対面だ。が、嘉門のいでたち、その圧倒的な存在感から、嘉門の人となりを知るのは容易いことであったろう。
 殊に、いかにも馴れ馴れしげにお民に迫っている侍とくれば、石澤嘉門しかおらぬことはすぐ判るはずだ。
 と、嘉門の手がそろりと伸びた。その指先がお民の手に触れたと思ったら、嘉門はさり気なく手を更に伸ばして、さらりとお民の指を撫でた。
 ほんの一瞬の出来事であった。生憎、源治は二人とわずかな距離があり、それに反して、お民と嘉門は比較的近くにいた。そのせいで、隙が生じたのだ。
 ちらと上目遣いに見上げてよこす嘉門の瞳にはゾクリとするような凄艶な、艶めいた色香が滲む。
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