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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第7章 第2話・弐
 が、確かに、その一瞬の眼線は、膚を合わせ情を交わした男女の間にしか通じぬものが込められていた。何も心に疚しいものはないはずだと自分に半ば言い訳のように言い聞かせながらも、頬に朱が走る。
 嘉門はお民の手首を引き寄せ、執拗にその指を撫でている。それは、まるで閨で男が女を愛撫するような淫らさをも滲ませていて。
 明らかに嘉門が源治を挑発しているのは判った。
「お止め下さい」
 お民が嘉門の手を振り払うのと、源治が叫んだのはほぼ時を同じくしていた。
「俺の女に触るな!」
 源治が声を荒げる。つかつかと二人に近づくと対抗するように、挑戦的な眼で嘉門をキッと見据え、お民の身体を強引に自分の側へと引き寄せた。
 手が腰に回り、更にグッと引っ張られ、身体と身体を隙間なくぴったりと密着させる。
「ホウ、これはたいしたご執心だ。もっとも、貴様のように若造に、お民の相手が務まるとも思えぬがな。のう、お民?」
 嘉門が余裕の笑みでお民に問いかけた。
「この女は、なかなか手強いぞ。見かけはこのように虫も殺さぬ楚々とした風情の手弱女だが、ひとたび臥所に入れば、氷を蕩かす焔のように燃え上がる。俺も大勢の女と関係を持ったが、正直、ここまで一人の女に溺れたことはない。閨の中のお民は、淫乱で奔放な女になる。ま、そこが可愛いところでもあるがの。相手をするのもなかなか疲れはするが、その分、こちらもたっぷりと愉しませて貰えるというわけだ。のう、若造、貴様もお民を抱いた男なら、そのようなことは知っておろう」
「止めてッ。止めて下さい。もう、それ以上言わないで!!」
 お民が涙混じりの声で叫んだ。
 嘉門が黙り込み、急速に沈黙が訪れる。
「手前とお民がどこでどんな風に過ごしてきたとしても、俺には一切合切拘わりはねえ。俺にとってのお民は、俺がよく知ってるお民だけなんだ。そして、これだけは断っておくが、手前とお民の関係はとっくに終わったはずだ。いつまでも、お民の前をうろつかねえでくれ」
 凄みのある声で言うと、源治はお民の肩を抱くようにして歩き出す。
 その背後から、嘉門の愉快げな声が追いかけてきた。
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