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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第7章 第2話・弐
「はて、真に本心から貴様はそのように思うておるのか? 俺と数え切れぬほどの夜を過ごし、俺の腕の中で夜毎身もだえ、身体をくねらせた女を何もなかったような顔で昔と変わらず抱くことが貴様はできるというのか?」
源治は嘉門の悪魔のような囁きを一切無視して、歩き続けた。
「夕べは悪かったな。今日、仕事には出てみたものの、どうにも気になって帰ってみたら、案の定、家の中はもぬけの殻だ。正直、焦ったぜ。心配になって、心当たりを探し回ってんだ」
「―私も昨日はごめんなさい。お前さんの気持ちも考えないで、一方的に働きに出たいって、そればかりで」
お民が謝ると、源治は破顔した。
「俺が何でお前を一人で外に出そうとしなかったか、判るか?」
お民がそっと首を振ると、源治は笑った。
「灼いてたんだよ、俺」
お民の意外そうな顔に、源治は大仰に吐息をついた。
「お前が思っている以上に、俺はお前に惚れてるんだぜ? また一人で外に出したりしたら、どんな男に眼をつけられるか判りゃしねえと思ってさ。折角帰ってきたお前がまた出ていったりしたら、俺はもう生きてはいけねえ―なんて、情けねえ男だと思うだろうけどよ」
お民が思いもかけぬ良人の独白に、眼を丸くする。
「よくよく考えてみたら、確かにそんな俺はあのさんぴんの言うようにガキだなって気付いたんだよ。こんなザマじゃア、あいつに若造呼ばわりされても仕方ねえ。俺はお民を信じることにしたよ。―今までだって、信じてないわけじゃなかったけど、やっぱり、言葉では綺麗事を言ってても、どこかでお民の心を疑ってたりしてたんだ。あの殿さまの屋敷で暮らしてた間に、お前の気が変わったんじゃねえかって。でも、お民はそんな女じゃねえ。何で、自分が惚れた女のことを信じてやれねえのかって、これでも猛烈に反省したんだ。あの飯屋に奉公する話、まだ断ってないのなら、行って良いぞ。ただし、夜は絶対に遅くならない、酔っ払いの相手はしない。それだけは約束してくれ」
普段、口数の少ない良人がここまで喋るのは珍しい。
お民の顔に微笑がひろがる。
源治は嘉門の悪魔のような囁きを一切無視して、歩き続けた。
「夕べは悪かったな。今日、仕事には出てみたものの、どうにも気になって帰ってみたら、案の定、家の中はもぬけの殻だ。正直、焦ったぜ。心配になって、心当たりを探し回ってんだ」
「―私も昨日はごめんなさい。お前さんの気持ちも考えないで、一方的に働きに出たいって、そればかりで」
お民が謝ると、源治は破顔した。
「俺が何でお前を一人で外に出そうとしなかったか、判るか?」
お民がそっと首を振ると、源治は笑った。
「灼いてたんだよ、俺」
お民の意外そうな顔に、源治は大仰に吐息をついた。
「お前が思っている以上に、俺はお前に惚れてるんだぜ? また一人で外に出したりしたら、どんな男に眼をつけられるか判りゃしねえと思ってさ。折角帰ってきたお前がまた出ていったりしたら、俺はもう生きてはいけねえ―なんて、情けねえ男だと思うだろうけどよ」
お民が思いもかけぬ良人の独白に、眼を丸くする。
「よくよく考えてみたら、確かにそんな俺はあのさんぴんの言うようにガキだなって気付いたんだよ。こんなザマじゃア、あいつに若造呼ばわりされても仕方ねえ。俺はお民を信じることにしたよ。―今までだって、信じてないわけじゃなかったけど、やっぱり、言葉では綺麗事を言ってても、どこかでお民の心を疑ってたりしてたんだ。あの殿さまの屋敷で暮らしてた間に、お前の気が変わったんじゃねえかって。でも、お民はそんな女じゃねえ。何で、自分が惚れた女のことを信じてやれねえのかって、これでも猛烈に反省したんだ。あの飯屋に奉公する話、まだ断ってないのなら、行って良いぞ。ただし、夜は絶対に遅くならない、酔っ払いの相手はしない。それだけは約束してくれ」
普段、口数の少ない良人がここまで喋るのは珍しい。
お民の顔に微笑がひろがる。