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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第7章 第2話・弐
たとえ、身体は女を知り尽くしたあの男に良いようにされてしまったのだとしても―、確かに、あの男がお民の身体を女体として開眼させたのは事実だろう。お民を女として成熟させ、花開かせたのが自分ではなく、あの卑劣な男だと思えば、気が狂いそうになるほど口惜しいが、残念ながら認めないわけにはゆかない。
それでも、身体だけは思いどおりに作りかえることができたとしても、お民の心は、内面はいささかも変わってはいない。お民は相変わらずお人好しで優しくて、泣き虫だ。
自分より他人のことばかり考えてしまう性分も何一つ、変わってはいない。
安堵したかのように自分の胸に頬を押しつけて眠る表情はあどけなく、これが嘉門の腕の中で夜毎痴態を見せていた女だとは思えない。
―お民。今度は何があっても、俺はお前を守るよ。この前のときは、俺はお前を守ってやれなかった。だが、次はお前を哀しませたりはしねえ。
お民のこの上なく安らいだ表情に、源治自身もまた至福の想いを噛みしめる。愛しい女の身体の重みとやわらかさを感じながら、源治もまた惚れた女が側にいることに限りない安堵を感じ、再び眠りに落ちてゆく。
たとえ身体を重ねなくても、二人の心はぴったりと寄り添っていた。寄り添い合った心と心は互いにこの上ない信頼を芽生え、育ませる。いつしか、二人の間にあった溝もその信頼が少しずつ埋めてくれた。
そして、やがて信頼を礎にして、小さな花が咲く。それは、所帯を持って二年、改めて二人の間にしっかりと根付いた愛情という名の花であった。
夫婦は恋人ではない。いつまでも甘い感情だけではやってゆけない。そのことを、お民は身をもって知ったような気がする。図らずも、お民が経験した哀しい出来事が、逆に源治との絆を固く結び合わせてくれたのだともいえた。
それから更に半月を経た。
江戸は日毎に春めいてきている。梅が至るところで満開に咲き、梅見の名所は大勢の見物客で賑わっていた。あと十日もすれば、桜も咲くだろう。そうなれば、更に名所と謳われる各地は溢れんばかりの人で押すな押すなの賑わいになる。
それでも、身体だけは思いどおりに作りかえることができたとしても、お民の心は、内面はいささかも変わってはいない。お民は相変わらずお人好しで優しくて、泣き虫だ。
自分より他人のことばかり考えてしまう性分も何一つ、変わってはいない。
安堵したかのように自分の胸に頬を押しつけて眠る表情はあどけなく、これが嘉門の腕の中で夜毎痴態を見せていた女だとは思えない。
―お民。今度は何があっても、俺はお前を守るよ。この前のときは、俺はお前を守ってやれなかった。だが、次はお前を哀しませたりはしねえ。
お民のこの上なく安らいだ表情に、源治自身もまた至福の想いを噛みしめる。愛しい女の身体の重みとやわらかさを感じながら、源治もまた惚れた女が側にいることに限りない安堵を感じ、再び眠りに落ちてゆく。
たとえ身体を重ねなくても、二人の心はぴったりと寄り添っていた。寄り添い合った心と心は互いにこの上ない信頼を芽生え、育ませる。いつしか、二人の間にあった溝もその信頼が少しずつ埋めてくれた。
そして、やがて信頼を礎にして、小さな花が咲く。それは、所帯を持って二年、改めて二人の間にしっかりと根付いた愛情という名の花であった。
夫婦は恋人ではない。いつまでも甘い感情だけではやってゆけない。そのことを、お民は身をもって知ったような気がする。図らずも、お民が経験した哀しい出来事が、逆に源治との絆を固く結び合わせてくれたのだともいえた。
それから更に半月を経た。
江戸は日毎に春めいてきている。梅が至るところで満開に咲き、梅見の名所は大勢の見物客で賑わっていた。あと十日もすれば、桜も咲くだろう。そうなれば、更に名所と謳われる各地は溢れんばかりの人で押すな押すなの賑わいになる。