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第1章 ―美荻野凛々香の日常―

　透明犯罪。

　それは透明人間による犯罪だ。と、いっても、映画や小説に出て来るような怪人の仕業によるものではない。この時代、透明人間はファンタジーやＳＦの中の存在ではなくなっていた。

　飲めばカメレオンのように体表を周囲の情景に溶け込ませることができる透明ドラッグ。それは通称で、正式にはＯＣＤ（オプティカル・カモフラージュ・ドラッグ）という。

　突如として社会に流出した出所不明のこの薬は、カメレオンどころか、軍用の光学迷彩スーツすら目ではないほどのカモフラージュ能力を発揮する。

　目の前に立たれても気づくことができないくらい見事に周囲の情景に溶け込み、背景の動きや変化まで、完璧に再現する。服用した者はまさに透明人間そのものといって良かった。

　そんなものが手に入るとなれば当然、それを使って不埒なことをする輩も頻出するわけで、違法ドラッグ認定された現在でも闇で出回るＯＣＤと、それによって起きる犯罪を取り締まるのが、彼ら透明犯罪捜査課の役目であった。

　そして彼らは今、広告代理店によって制作された啓蒙広告のパイロットフィルムの検討のため、ミーティングを行っている所だった。