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透明犯罪捜査官 美荻野凛々香の非日常
第2章 ―多賀瑠偉人の非日常―
 あまりの苦悶に、ついに瑠偉人は人目もはばからず、デスクの上で頭をかきむしってしまった。

「どうしたの? 多賀クン? 悩みでもあるの?」

 ハッとして振り向くと、少し心配そうな笑顔の凛々香がそこにいた。

「あ……いえ。なんでもないです……ちょっと体調が思わしくなくて……」
「そう? そういう風には見えなかったけど……本当に大丈夫? 相談があるなら聞いてあげるわよ?」

 さすがに凛々香は鋭い。瑠偉人は答えに窮した。今、口を開いたら洗いざらいを喋ってしまいそうだった。

 だが、先ほどの電話の主は、二人を監視していたかのような口ぶりだった。喋れば、あの動画で何をされるかわからない。そうなれば、まだ大学生の春名の前途はどうなる。

(ああ……畜生! なんだって俺がこんな目に……いや、悪いのは全部俺だ……俺の弱さが招いたことなんだ)

 瑠偉人は自己嫌悪に陥って、凛々香の前である事も忘れて顔を曇らせてしまった。

「ねえ、瑠偉人。やっぱりおかしいわよ、貴方……」

 凛々香が顔を近づけて小声で囁く。

「後で話を聞いてあげる。今、ちょっと課長に呼ばれて行かなきゃいけないけど……それが終ったら、ね!」

 そして元気づけるようにポン、と肩に手を乗せる。

(……こんな事、絶対に凛々香には相談できない!)

 課長室へと向かう凛々香の後ろ姿を見送りながら、瑠偉人は手を胸に置いて考え込んだ。それはあたかも、肩に残った凛々香の手の温もりを確めるような姿だった。
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