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透明犯罪捜査官 美荻野凛々香の非日常
第3章 ―都議・酒倉の非常識―
「君には担当を外れて、別の者に引き継いでもらうことになるだろう」
「そうですか……」

 最後まで自分の手で捜査したかったが、そういうことならば仕方がない。だが、何か引っかかるものがあった。

(……話が出来過ぎていない?)

 あと一歩で酒倉を逮捕できる所まで来て、転属の辞令。そして担当は他へと引き継ぎ……

 先ほどの取調室でのやり取りが脳裏に甦る。

――ま、仕事を探さなアカンときはウチでいつでも秘書に雇ったるで。

 酒倉のあの捨て台詞……あれは虚勢ではなく、口が滑ったのではないのか? すでに何らかの圧力を上層部に掛けていたのではないのか?

(だとすれば……二課への推挙、このまま受けてしまっていいものかしら)

「あの、課長……」

 試しに尋ねてみる。

「酒倉事件だけはこのまま私が担当することはできませんか?」
「……ダメだ」

 半ば予想通り、課長は即座に否定の言葉を口にする。

「新規創設される課だ。中途半端でやれるものではないと思うが?」

 理由だけはもっともらしい。確かに、そう言われては反論しづらい。

「……わかりました」

 不承不承、というのが口調にも顔にもありありではあったが、凛々香がそう言うと、課長もまたわかりやすい安堵の表情を浮かべる。

(やはり、圧力……?)

 本来なら喜ぶべき二課の設立と転属の話だったが、こういうわけで凛々香は釈然としないモヤモヤを抱え込むことになってしまったのだった。
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