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透明犯罪捜査官 美荻野凛々香の非日常
第5章 ―美荻野凛々香の非日常―
    ※    ※    ※

 都会とはいえ、閑静な住宅地であれば、夜空の星もそれなりに見える。

「私、やっぱりダメ……もう帰ろう? 瑠偉人……」
「シッ……凛々香。大きな声はよくない」
「手、離さないで……怖いの」

 必死で瑠偉人の見えない手を離すまいとする凛々香。その凛々香の姿もまた見えない。瑠偉人にせがまれ、凛々香はまたもや透明ドラッグを飲まされ、強引に夜の散歩に出ることになってしまったのだった。

 人通りはほとんどなかった。一、二度、近所の住民とすれ違った程度。もちろん、二人に気づきもせずに彼らは通り過ぎてゆくのだが、その度に凛々香は心臓を飛びあがらせ、息を潜めてしまう。一糸まとわぬ姿の心細さに加えて、それを自ら晒していることへの羞恥心ともつかぬ奇妙な興奮。それが凛々香を怖気づかせる。

 ぎゅっと握られた凛々香の手を、優しく握り返して瑠偉人が囁く。

「大丈夫よ……絶対離さないから。安心して、凛々香」
「瑠偉人……」

 泣きそうになっている自分の顔を瑠偉人に見せてやりたい。私がこんなに心細くしているのに。

「もう少しだけ……ね。薬が切れるまでにはちゃんと戻るし」
「うん……」

 結局、押し切られる。

 少し強い風が吹いた。夏場とはいえ、何も身に着けていない体には涼しすぎる風だ。

「あ……でも、やっぱり帰ろう?」
「どうしたの?」
「冷えて来ちゃって……」
「オシッコ?」
「……うん」

 聞き取れるかどうかの小さな返事。

「……もったいないな、まだけっこう時間は残っているのに」

 透明ドラッグの効き目はおよそ三十分ほど。二人は外に出てまだ五、六分という所だった。

「じゃあさ、凛々香……そこでしちゃいなよ」
「えっ?」
「オシッコさ……その場でササッとすませればいいじゃないか」
「そんなこと……」
 確かに誰にも見られることはないかもしれない。でも、瑠偉人の前で?
「嫌よ、恥ずかしい!」

「俺、見てみたいな……凛々香のオシッコする所。いや、実際には見えないけどさ……目の前で凛々香がオシッコしてるって思ったら興奮するよ」

 ほら……とでも言う様に、瑠偉人が凛々香の手を自身の股間へ誘う。

(あ……瑠偉人、こんなに……)

 手に触れた肉の硬さと熱さに、凛々香は驚く。その耳元に瑠偉人の低い囁き声が届く。

「……凛々香のせいだよ」
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