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君は僕のものだった
第1章 君は僕のものだった
「あのね・・・」


 あいつはぼくのアパートの近くの真新しい一戸建てに家族で住んでた。
 妹が精神的な病気になっちゃったから、少しでも環境のいい場所に住もうって、都会から家族揃って引っ越してきたんだって。

 あいつとは海岸沿いで何度か顔を合わせて、どっちともなく挨拶するようになって、いつのまにか親しくなって、気が付けば・・・。
 君は信じられないだろうね。
 ぼくだって、信じられなかったんだから。
 ぼくが、知らない女性と自然に話ができる日がくるなんてさ。

 あいつの笑顔は太陽みたいにあったかいんだ。
 なにを話しても笑い話にしてくれてさ。
 いつも元気で、明るくて。
 こんなぼくをさ、まっくろいぼくをさ、オレンジみたいなきいろみたいな色でいつもすっぽり包んでくれるんだ。

 あいつの家族もみんなそんな感じ。

 はじめてあいつの家族に会ったのは、あいつと付き合いだしてすぐだった。
 あのひとたちは、初対面で緊張してるぼくをさ、笑顔で迎えて、ずっと笑顔で接してくれたんだ。

 君は信じられる?
 こんな、汚いぼくをさ、なんの迷いもなく、受け入れてくれるんだよ。
 信じられる?

 ムスメから聞いたよ、色々たいへんだったんだねぇ、なんて、家族全員で、ぼくに言ってさ。
 でもさ、うちの子もそうだけど、生きてるだけでいいんだよって、ぼくに、初対面のぼくに、笑顔を、家族全員で向けてさ。

 海のちかくの、夕暮れのオレンジいろの水面がきらきら揺れてるなかでさ。

 今までよく生きてきたねって、もう頑張らなくていいんだよ、とか、ぼくに言ってくれるような、そんな人たちがさ。

 そんな家族が、この世には、存在するんだよ。
 君は、知ってた?
 ほんとうに、なんの汚れもなく、あなたにであえてよかった、とか、あなたのことがだいすきだよ、って人に言える人が、この世にいたってことをさ。


「あの・・・。わたしのこと・・・」


 はじめて、心の底から、自分にじゃなくて、そうじゃなくて、ほんとうの意味で、好きだって、言いたくなるような人間がこの世にいたってこと、君は・・・。


「わたしのこと・・・・忘れることが、できてる?」


 ぼくより先に家庭を持った君は・・・。


「わたしはね、わたしは・・・わたしは・・・今でも・・・」


 ぼくを一度だって責めたりしない君は・・・・。
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