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給湯室
第1章  
「いや、いいよ、君も残業続きで大変だろう? ……お茶はどこかな?」
「あ、ここにあります……やっぱり私がお入れします、部長……」
「そうか、すまんね、じゃあ、お願いするよ……」
また彼女は流し台に向かい、こちらに背を向けてお茶の用意を始めた。
私は近づいた。
甘いコロンの匂いが鼻に届く。
後姿に話しかけた。
「そうだ、そういえば和久井君、来月結婚するんだったね? 招待状ありがとう。結婚式は是非とも出席させてもらうよ」
「お忙しいところすみません、よろしくお願いします……」
首を少し回し、おじぎをした。
「でも、和久井君は寿退社しないそうだね?」
「ええ、やっぱり結婚しても、二人で働いて行かないとやっていけそうもないので……」
「そうだろうね……今の世の中、夫の給料だけで、暮らしていけるなんて、うちの役員くらいだよ。私だっていつも女房にいわれているよ。給料が安い、なんてね……」
「そ、そんなこと……」
「巷ではアベノミクスだなんだと浮かれているけど、うちは今年度も苦しいよ……。ここだけの話だが、来月の年末までにうちもとうとうリストラを敢行せざるを得なってしまった……全く困ったものだ。今も人事部に呼ばれて、誰をリストラするかの会議だったんだ……ちょっと息抜きにこちらに戻ってきたんだが……」
「そ、そうなんですか……」
「いやあ、ほんとに頭が痛いよ、うちの部署からもリストラ要員を1名出せ、なんて言われたよ」
「うちの部署から、1名……ですか?」
不安げな顔で振り向いた。
彼女の肩に手を置いた。
びくっと体を震わす。
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