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琥珀色に染まるとき
第10章 マホガニー色の幻

彼の唇が、音を立てながら首筋、鎖骨に下りてくる。そのまま胸には下りず、肩に一つ、腕に一つ、二つ……優しい口づけを落としていく。そのたびに、涼子は小さな艶声を漏らす。
手を掴まれると、手首の裏、手のひら、指先に至るまで優しいキスが降り続けた。壊れものに触れるよう、丁寧に、大切に。
熱を帯びた視線にとらえられながら、彼の舌が自分の指に絡められるさまを眺める。まるですべての性感帯がそこに集中したかのように、その穏やかな愛撫に翻弄される。
「はぁ……っ、ん……」
次第にたまらなくなってきて、もてあそばれている左手を引っこめようとするも、叶わない。それならば、右側の枕元に置かれている彼の手を噛んでやろうと思った。人差し指に歯を立ててみる。
「痛いよ」
そう言いながらも、まったく痛がるそぶりを見せない彼は、くすくすと笑う。なんだか悔しくなり、その余裕の表情を崩したい衝動に駆られた。
骨ばった綺麗な五本のうち、一番長い中指を口に含み、舌でなぶる。一瞬それが舌の上でぴくりと動いたが、構わず舐め続けた。しばらく口淫のごとく長い指を堪能していると、掴まれていた左手が解放された。
「……おい。こら、涼子」
低いかすれ声に呼ばれ、愛撫を続けながら目線だけ彼へ移せば、視界に映ったのは悩ましい微笑。思惑どおりの反応に満足し、お返しよ、という気持ちを込めて意地悪く微笑んでみせる。
「ばかだな……」
彼はそれだけ呟くと、妖しげに微笑んだ。淡い明かりの中に浮かび上がるのは、底なしの欲望に染まった男の瞳。
今から、この男に抱かれる――。
その瞳に映る自分はきっと、色香を振りまく女の顔をしているに違いない。涼子はそう思った。

