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琥珀色に染まるとき
第10章 マホガニー色の幻

***

 黒いスリップが、ベッドの端からするりと落ちていった。

 暗い寝室を淡く照らす暖かな明かりが、目の前にいる男の引き締まった上半身に艶めかしい陰影をもたらしている。
 涼子は、今にも覆いかぶさってきそうなそのたくましい胸板に、そっと触れた。シャワーを浴びたばかりの肌は、吸いつくような火照りを帯びている。その奥で心臓がどくどくと振動し、彼が生きていることを証明している。

「涼子」

 そのかすれ声とともに、手首を掴まれた。もうなにも身にまとっていない胸元に濡れた唇で強く吸いつかれ、ちくりと甘い痛みが走る。

「んっ……」

 しばらくして顔を上げた西嶋は、自身が付けた赤いしるしを見て苦笑した。その仕草が無性に愛おしく思え、涼子は彼の広い肩にしがみつき、自らキスをせがむ。

「あ、ぁ……」

 やわく唇をなぞる彼の吐息を感じながら、薄らとまぶたを開くと、心配そうに揺れる瞳が見える。なにかをためらうようなその視線を受け止め、涼子はひかえめに自分の舌を差し出した。切なげに熱い息を吐いた彼は、今度は躊躇することなく、かぶりつくような激しいキスを返した。
 彼がくれた“証”のおかげで、もう胸の傷痕など気にならない。彼の優しさを感じるだけで、心が満たされる。

 頭の下に差し込まれた彼の手が、優しい手つきでヘアクリップを外した。それをサイドテーブルに置くと、シーツの上に広がった暗髪をその長い指で愛でる。

「さっきの髪型よかったな。色気が増して」

 真上から降る低い声、意地悪でセクシーな笑みに、身体の芯が疼く。

「……ばか」

 ため息混じりに呟き、両手で彼の頬を包んで引き寄せ、そっと唇を重ねた。顔を離して見つめれば、応えるように彼は口角を上げる。それが最後の合図となり、二人の間に甘い沈黙が降りた。

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