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琥珀色に染まるとき
第12章 幸福な憂心のまま

 それからは、平和な学生生活を過ごした。
 土日休みの会社員である彼女とは、“デート”と称して何度か一緒に出かけた。彼女は涼子を愉しませようとたくさんの話をした。そして同時に聞き上手でもあった。

 ときには恋愛話に花を咲かせることもあった。その頃には涼子にも恋人ができ、人並みに恋をしていた。相手は、駅のホームであの男に怒鳴られた日、一緒にいた同級生だ。あれ以来、親身になってくれる彼に話を聞いてもらううちに、自然と深い仲になったのだった。
 初めては、その彼に捧げた。同級生といっても二歳上だった彼は、経験のない涼子を優しくリードした。

 なにも知らなかったあの頃の自分は、甘酸っぱくて、初々しい香りを、全身から惜しみなく放っていたに違いない。
 彼女が救ってくれなければ、“若さ”という一生に一度しかない貴重な時間を、アパートの部屋の隅でひざを抱えて過ごすことになっていたかもしれない。

 どうして見知らぬ自分を助けてくれたのか、彼女に尋ねてみたことがある。

――最初は単なる正義感だったの。でも涼子ちゃんと話してたら、なんだか私の彼に似てると思って。他人の心配ばかりで自分のことは後回しなところが特にね。それで放っておけなくなっちゃった。

 彼女は嬉しそうに答えたのだった。他人の心配ばかりなのはあなたも同じだと指摘すると、はにかんだ笑みが返ってきた。
 彼女と他愛ない話をするだけで、恐怖に覆われていた心に暖かな光が差すようだった。一見どちらが年上かわからないほど彼女は童顔であったが、中身は正真正銘、自立した大人の女性だった。

 彼女のような強い女性になりたいと思った。自分も誰かを救える人間になろう、と。
 こんなに魅力的な人が好きになる男性とはどんな人なのだろう。そんなふうに考えを巡らせたりもした。

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