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琥珀色に染まるとき
第12章 幸福な憂心のまま

男の様子があきらかにおかしくなったのはその頃からだ。いるはずのない時間に駅や大学で待ち伏せされたり、一人暮らしの自宅アパートまでつけられたりするようになった。
当時の涼子に一人きりで自らの身を護る術はなく、ただ恐怖に怯えるしかなかった。次第に、自業自得なのではないかと思い始め、父親や友人に相談することも躊躇していた。
あのとき、もっと早い段階で父に打ち明けていれば、こんなことにはならなかったかもしれない――。今でもそんな考えが頭をよぎるたび、後悔の念に苛まれる。
当時二十六歳だった彼女と出会ったのは、誰にも言えない恐怖に押し潰されそうになっていた頃だった。
いつもの駅であの男がいないことを確認し安堵しているところに、彼女は涼子の目線の少し下から話しかけてきた。
――突然ごめんなさい。ちょっといいかな?
太陽のように明るい笑顔が印象的な女性だった。彼女のことは十一年間、片時も忘れたことはない。
彼女からのアドバイスで、涼子は警察に相談しに行くことを決めた。警察から男に対して“警告”を実施してもらうだけで、ストーカー行為を抑制できることもあると彼女が教えてくれたからだ。
勇気を振り絞って彼女の助言どおりにすると、意外にもストーカー行為はすっかりやんだのだった。自分のことのように喜ぶ彼女に、涼子は心から感謝した。
田舎に一人で暮らす父親には黙っておこうと思ったが、それはだめだと彼女に言われた。
――家族が事情を知っているといないとでは、全然違うから。
少々厳しい口調で諭したあと、太陽の笑みを見せた彼女は最後にこう言った。
――もっと人に頼りなさい。

