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琥珀色に染まるとき
第15章 A TIME FOR LOVE

 ベストのポケットから懐中時計を取り出す。二本の針は仲良く“XII”を指している。

「涼子」

 優しく呼びかけると、俯いて黙りこんでいた彼女がおもむろに顔を上げた。

「誕生日、おめでとう」

 彼女は思い出したように腕時計に視線を落とし、再びこちらを見つめると、照れくさそうな笑みを浮かべた。

「……ありがとう」
「いや、悪いな。なにもしてやれなくて」

 今すぐ腕の中に閉じこめたい衝動に駆られながらも、カウンター越しにそう返すだけ。だが、そんな返答にも彼女は穏やかな表情を浮かべ、小さく首を横に振った。

「やっぱり嬉しい。おめでとうって言ってもらえるの」

 その純粋な言葉のあと、彼女は息を吸い、ゆっくりと吐き出すように話し始めた。

「今までは、誕生日が来るたびに、私だけが……生きてるんだって……」

 途切れ途切れに言い、今にも泣き出しそうな顔に儚げな笑みを浮かべる。今日まで誕生日の話題を避けていた彼女の気持ちを、景仁は悟った。
 彼女にとって一つ歳をとるということは、十一年前に時間が止まってしまった真耶の無念を一つずつ胸に刻みこむことだったのかもしれない。一つ、また一つと心に傷を負い、自らの生きる幸せを否定し続けてきたのだろう。

 どれだけ自分を苦しめても、亡くなった者の哀しみを身をもって知ることはできない。それこそが生き残った者の苦しみであり、一生消えることのない傷だ。
 彼女はひどくつらい経験をしたにもかかわらず、それを背負ったまま人を護る仕事に就いた。自身を苦しめたストーカーという恐怖に再び向き合わければならない可能性を知っていながら、その道を選んだ。真耶の死と哀しみに最も近い場所に身を置くことを、彼女は自ら選択したのだ。

 それがどれほど大きな決断だったか。これまでどれほど自分を犠牲にし、強がって生きてきたか。想像するだけで胸が締めつけられる。

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