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琥珀色に染まるとき
第15章 A TIME FOR LOVE

「若いくせに心配性だな、城戸くんは」
「ふふ、そうなの。でも、詳しいことは聞かないでいてくれてるわ」
「へえ。空気も読めるんだな、あいつ」
もう一度、ふふふ、と笑った涼子は、静かに続ける。
「ごめんなさい。お店が終われば会えるのに、来ちゃって」
「いや、嬉しいよ」
「明美さんを怒らせちゃったし」
「あれはお前のせいじゃないだろ」
「でも、明美さんが元気そうで、ちょっと安心した」
涼子はそう言って微笑む。ひかえめで気遣い屋の彼女は、ほかの女性客がいる中、“恋人”という立場でこの狭い空間に身を置くことを自身に許したくなかったのだろう。
「真面目だな。お前は本当に」
「違うわ……真面目なんかじゃない」
小さく否定した彼女は、戸惑いに瞳を揺らし、切なげに眉を寄せる。
「……嫉妬なんて、したくないのに」
か細い声が、店内に静かに流れるピアノジャズに溶けた。
「涼子」
優しく名前を呼べば、彼女はそれに促されるようにぽつりと言った。
「嫌な女ね」
「どこが」
思わず彼女の間違った自己分析を遮ると、だって、と伏し目がちに返される。
「あなたのせいよ……」
「それはお互い様だろう。俺もお前の同僚に嫉妬したぞ」
自嘲気味に諭してやると、それでいくらか不安が解消されたのか、彼女は少しだけ視線を上げた。そのひかえめな上目遣いにとらわれて、目が離せない。
「あなたも、離れたくないの?」
「そうだよ」
「欲しくて、たまらない?」
「ああ。今すぐにでも」
「……っ」
「お前な、そんな大胆なこと自分から聞いておいて今さら照れるなよ」
なにが、“瞳で酔わせて”、だ。酔わされているのはこっちだ。頬を赤らめて固まる愛おしい女を眺めながら、景仁は苦笑した。カウンターを挟んだこの距離が歯痒くてたまらない。

