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琥珀色に染まるとき
第16章 青い薄闇に埋もれて
第十六章 青い薄闇に埋もれて
左の薬指を撫でられた感覚が、三十分経った今も、まだ残っている。
西嶋に見つめられながら、そのぬくもりに左手を包まれていたのは、たったの五分間だった。入り口の扉の開く音が新たな客の来店を知らせた瞬間、その長い指は名残惜しそうに薬指を撫でて離れた。まるでそこに指輪をはめるような動きをして……。
そこに言葉はなく、ただひたすらに真剣なまなざしを向けられた。あの行為に深い意味があるとしたら。気のせいでなかったら。そう考えるだけで、戸惑いと悦びに心が叫び出しそうになる。
チェイサーを挟みつつ、お気に入りのカリラの香りを愉しみ、ホワイトチョコレートの塩気を舌の上に感じながら、心が静まるのを待つ。客たちの相手をする西嶋の声とシェイカーの音に耳を澄ませると、鼓膜が甘く痺れ、頭の中にじんわりと癒しが広がった。
そうしていよいよ意識がゆらゆらと浮遊し始めた頃、近くの席にいる客が席を立った――。
「……涼子」
思いのほか近くで聞こえたその低い声に驚き、完全に閉じていたまぶたを開く。愛おしい気配を感じて右側を向けば、隣に座る西嶋が優しく微笑んでいた。
「終わったよ」
「え、もう?」
「ああ。待たせて悪かったな」
ふと違和感を覚えて腕時計に目を落とす。時刻はまだ〇時五十分だった。すでに店内に客はなく、BGMも消されている。