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琥珀色に染まるとき
第20章 ラスティネイルの夜

 ビルを出たとたん、凍えるような寒さと得体の知れない寂しさに襲われ、無性に泣きたくなった。みじめな気持ちをふりはらように颯爽と歩き出すも、気分は晴れるどころか、濃霧に視界を遮られたかのように暗い。
 コートのポケットに手を忍ばせ、白い息を吐きながら、涼子は星の見えない夜空を見上げた。

「……もう、疲れた」

 こぼれた小さな本音は、誰の耳にも届かない。そのことがなぜ、こんなにも孤独を感じさせるのだろうか。
 その理由はわかっている。いつの間にか、独りでいることが当たり前ではなくなっていたからだ。隣に寄り添う誰かのぬくもりに心を癒されることが、日常になっていた。

 ひっそりと、小さくていい。
 ささやかな幸せを、愛する男と一緒に分け合うことができれば、それでよかったのに……。

――私の幸せが、誰かを不幸にしている。

 あの顔を思い出すたび、左胸に重苦しい鈍痛がよみがえる。
 歳の離れた妹がいると真耶から聞いたことはあったが、会うのは昨日が初めてだった。目の前で真耶が話しているような錯覚を起こすほど、実耶のすべてが彼女にそっくりだった。


――姉に与えられるはずだった幸せを、よりによって、あなたが手に入れたんですね。


 真耶の面影が残るその顔に浮かんだ失意の表情と、その唇から発せられた言葉が頭から離れない。


――もうあなたにとって姉のことは過去なんですね。私たち家族は今でも、昨日のことのように思い出して苦しんでいるのに。


 今は聞こえないはずの声が、脳内で勝手に再生される。

――私だって忘れてなんかいない。苦しくて、哀しい毎日だった……。

 あのとき返せなかった言葉を、涼子は心の中で呟いた。

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