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琥珀色に染まるとき
第20章 ラスティネイルの夜

――自分がなにしてるかわかってますか。姉の婚約者だった人とデキて、姉のお墓参りって……信じられない。

――どうしてお姉ちゃんが死ななきゃならなかったのよ。なんにも悪いことしてないのに。お兄さんと結婚して、幸せになるはずだったのに。なんであなたが……。

――お願い。お兄さんだけは奪わないで。お願いだから。

 実耶は、泣いていた。涼子は、最後まで一言も発さずに彼女の言葉を聞いた。そうして、言いたいことをすべて吐き出した実耶に深く頭を下げ、彼女のもとを去ったのだった。


 歩き続けてすっかり冷たくなった頬を、雑音を含んだ空気がかすめていく。やがて、通り過ぎていく車の音も、歩道を歩く自分の足音さえ、すべて聞こえなくなった。無音の中で、今にも切れそうだった糸がついに、ぷつりと鳴った。

 もう、無理なのかもしれない――絶望的な考えがよぎった、そのときだった。

「東雲さん」

 重みのある低い声に呼び止められ、はっとして振り向く。その人物を視界に入れた瞬間、なぜだか大きな安堵感に包まれた。
 その男が西嶋の旧友であり、おそらく過去を知りながらも、西嶋との関係を咎めることなく見守ってくれるただ一人の人間だからかもしれない。

「やはり君だったか」
「……藤堂さん」

 その名を口にすると、涙腺が決壊した。

「こんな夜遅くに一人で泣きながら徘徊しているなんて、あいつが知ったら心配するだろうな」
「は、徘徊じゃ、ありません」

 乱れる呼吸の中、それだけ言い返すのがやっとだ。すると、藤堂がその堅実そうな顔に苦笑を浮かべた。

「今からあいつの店に行くんだが、君も一緒にどうだ」

 涼子は首を横に振る。

「そうか。だったら別の店に行こう」
「……え」

 その有無を言わさぬ提案に、涼子はただ呆然と立ちつくすばかりだった。

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