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琥珀色に染まるとき
第20章 ラスティネイルの夜

「うっ……」

 腹部に広がった痛みで、腹を殴られたのだと知る。そのまま身体を持ち上げられ、どこかに連れていかれているのがわかる。

 涼子は、全身で抵抗した。頭には十一年前の恐怖がよみがえる。あの日もこんなふうにして、数人の男に暴行されて真耶と一緒に拉致された。
 車のスライドドアが開く音がし、乱暴に投げ落とされる。窓ガラスかなにかに頭を打ちつけて、涼子は低く呻いた。

 顔を覆っていた袋が剥ぎ取られ、意識がもうろうとする中で急に視界がひらける。かすかな街灯の明かりが照らす車内で、まず初めに目に入ったのは、小林雅人だった。残忍な笑みを浮かべたその顔は、いつか見た犯罪者のそれを彷彿させる。

「久しぶりだな」

 その一言とともに、小林は涼子の頬に思いきり平手打ちを食らわせた。

「……っ」

 するどく睨み返すと、もう一度ぶたれた。口内に鉄錆の味が広がる。

「涼子さんっ」

 声がした左側に目をやり、涼子は愕然とした。生気のない表情で涙を流しているその女――明るいストレートの長髪がかろうじて彼女が誰なのかを主張しているが、化粧気のない顔や質素な装いがそれを惑わせる。

「……明美さん」

 小林にもう一発殴られると、ついに意識が遠のいた。
 車がゆっくりと発進する。車内には、諦めたようにむせび泣く明美の声が漂った。


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