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琥珀色に染まるとき
第20章 ラスティネイルの夜

 藤堂が捕まえてくれたタクシーに一人で乗り、自宅マンション前で降りると、道端に黒いバンが停まっているのが見えた。
 窓はスモークガラスになっていて中が窺えない。なんだか異様な空気を感じる。

 早くマンションに入ろうと歩き出したとき、肩にかけているバッグの中で、携帯電話が長い振動で着信を知らせた。取り出し、画面に表示された発信者を確認する。一瞬頭によぎった名前とは異なるそれに落胆し、なにを期待しているのだと心の中で自らを叱り、電話に出た。

『あっ、涼子さん、ごめんね。今電話しても平気?』

 受話口から聞こえる明美の声はあいかわらず華やかだが、いつもより少しだけ早口なように思える。

「大丈夫よ。どうしたの」
『えっと、たいしたことじゃないんだけど』
「なにかあったの?」
『ううん、違うの。ちょっと話がしたいだけ』

 電話の向こうに感じる切迫した空気に異変を察知し、涼子はバッグの中から仕事用携帯を取り出し、電源が入っていることを確認すると、すばやくスーツの内ポケットに忍ばせた。

「なにかあったのね、明美さん」

 そう言うのとほぼ同時に、背後に人の気配を感じた。

「……っ」

 振り向こうとした瞬間、視界が真っ暗になった。頭から袋を被せられたのだと理解したとたん、後ろから何者かに羽交い絞めにされる。手から私用携帯が滑り落ちた。
 肘を後ろに突き出して腹を攻撃すると、その人物は呻き声をあげて離れる。その直後、目の前に別の人間の気配がした。

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