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琥珀色に染まるとき
第23章 いつか無色透明の愛が

「上の息子さんは、どんなお子さんだったのですか」
「何事もそつなくこなすが、どこか達観していて……よくいえば周りをよく見ているということなんだが、悪くいえば冷めている奴だったな。私に似たんだろう」
その日本語の意味がわかるのだろう、ルルがおかしそうに笑っている。
「あ、あの……息子さんの、お店って」
そこまで口走ったのとほぼ同時に、店奥のソファー席のほうで歓声があがり、アコースティックギターの音が聴こえてきた。ミュージシャンによる即興ライブが始まったようだ。
ゆったりと感傷を誘うような情緒的な前奏のあと、透きとおった女性の歌声が響く。世界的に有名な曲で、涼子も聴き覚えがあった。
穏やかだが物哀しげな旋律に耳を傾けていると、あるフレーズに差しかかった。“愛はいつか色褪せる”と唄う女性ボーカルの哀しげな声を聴きながら、涼子は手元の琥珀色を見つめ、正反対のことを想う。
蒸溜したての無色透明なスピリッツが樽の中で熟成され、魅力的な琥珀色のウイスキーになるように、年月とともに色濃く、味わい深いものになる愛もきっとあるはずだ――と。
直和が、話の続きを語り始めた。
「あいつが二十歳になったばかりの頃、バーで働くと言ったときは驚いたよ。だが、なにかに熱くなるあいつを見るのは初めてだったから、嬉しかったね。私はあいつの意地を見届けたいんだよ」
「意地?」
「この道で生きていくという意地さ。だから、あいつは自分の名前を店の名にした。あの店は、あいつの人生だからな」
「自分の、名前……?」
直和は、ゆっくりと頷いた。
「息子が生まれたとき、ルルの祖父の名前から、クレイというセカンドネームをもらって名付けたんだ」
「……っ」
「バー・クレイ。それが息子の店の名前さ」

