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琥珀色に染まるとき
第25章 Clayのもとへ還る心

そこにいるのは、余裕のある大人の男などではない。過去に一人の女を失った――愛する女をもう二度と失いたくないと叫ぶ、孤独な男の姿だった。
涼子はひざ立ちになり、すべてを包みこむように彼の大きな身体を抱きしめた。胸に顔をうずめる愛しい男の柔らかな髪に唇を寄せる。
「もう、あなたを残して遠くへ行ったりしない。約束する」
囁くと、強く抱き返された。
今まで彼から与えてもらうばかりだった涼子は、ずっと考えていた。
自分はこの男になにを与えてあげられるだろう。この男はなにを求めているのだろう。もしかしたら、自分のような年下の女に求めるものなどないのかもしれない、と。
ゆっくりと上体を離し、すがるような視線をよこすその顔を見下ろす。柔らかな笑みを返しながら、自分がこの男に与えられるものがなんなのか、ようやく気づいた。
***
涼子は、天を仰いだ。
泣きそうな色に染まった空が、グラスゴー空港に出入りする人々を寂しげに見下ろしている。そこに浮かぶ雲は、どこへ向かって流れていくのだろう。
そっと右に視線を移すと、西嶋も同じように空を見ていた。目を細めて斜め上を見るその端正な横顔には、憂いも哀しみも宿ってはいない。ただひたすらに一点を見つめているだけだ。
それなのになぜだか胸が切なくなり、今すぐにこの男を抱きしめてやりたいと思った。だが、なんとなくそうせずに、静かにその姿を見守った。
ふと視線に気づいた彼が、こちらを見て苦笑する。
「最後もこんな天気か」
「そうね。でも嫌いじゃないわ」
彼は優しく微笑む。
「さ、帰ろう」
「はい」
涙雲の先に待つ景色を楽しみに、涼子は清々しい気分で彼に微笑みかけた。

