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琥珀色に染まるとき
第26章 琥珀色に染まるとき
「さっきね、ほんの少しだけ未来を見たの」
「未来?」
彼は一瞬目を見開き、タオルで手を拭うと、その長身を前に傾けてカウンターの上に両手をつく。目線の高さを涼子とほぼ同じにすると、口を開いた。
「なにが見えたんだ」
「都合のいい妄想かもしれないけど、私の一番好きな光景だった」
「そうか」
驚いた様子で呟いた彼は、それからしつこく追求してくることはなく、穏やかな表情を浮かべて遠くを眺める仕草をしてみせた。
「どんな光景かな。俺も見てみたいよ」
「今も見えているわよ」
「そうなのか。ふむ」
後ろを向いた彼は、バックバーを端から端まで眺めて思案している。
「ふふふ。違うわ」
その広い背中に向かって投げる。初めて想いを口にしたあの雨の夜から、ただ一つ変わらない、いや、これからもっと色濃くなっていくであろう愛を。
「カウンターを挟んで、ここから見る、あなた」
振り返った愛しいその人に、もう一度、涼子はとびきりの笑顔を見せて言った。
「あなたよ。景仁さん」
しばらく黙ってこちらを見ていた彼は、ふっと口角を上げた。カウンター内から出てゆっくりと歩み寄ってくる。目を合わせながら身をかがめ、囁いた。
「俺は、すぐ近くで見るお前のほうがいいな」