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戦国ラブドール
第5章 壊れたドール
次の日の朝、羽柴秀吉は出立した。戦を放棄したのだから、本来ならば暗い顔の一つでもするべきである。だがまるで祭りでも行くかのように明るく、秀吉は足取り軽く向かっていった。
「お姉ちゃん……あのね」
「ごめん、小夜。あたし……ちょっと用事があって。虎之助とか吉継に借りたまんまのもの、返してこないと」
「え……」
「そんなに時間は掛からないから。先に行ってて」
小夜とは、まともに顔を合わせられず一日中避けていた。だが仕事のある昼間はともかく、それが終わった後は逃げ場がない。大海は小夜が暗い顔をしているのに気付きながらも、そのまま去ってしまった。
「お姉ちゃん……」
残された小夜は、一人城の中をさまよう。一人で部屋には戻りたくなかったのだ。だが歩いていても、気が晴れる訳ではない。堪えきれずに涙を流すと、足も止まってしまった。
するとすれ違った武士が、足を止め振り向く。
「――どうしました? どこか、痛いのですか?」
「え……?」
粗雑な武士とは違う、柔らかで落ち着いた大人の声。小夜が顔を上げられたのは、彼が穏やかな雰囲気を持っていたためだった。