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戦国ラブドール
第6章 讒言
だがいくら記憶を辿っても、吉継にそんな薬屋の記憶はない。大商家、それも薬屋であれば近江の武家と接触していないはずがない。そして月橋という珍しい名字は、一度聞けば頭に残る。それでも思い出せないという事は、吉継が存在を忘れたのではなく、元々その名を知らないのだろう。
「でも、その月橋家が彼女と関係あるのかな? 彼女は能登から連れてきた娘なんでしょ?」
「ええ、だから一度聞いてみようと思っていたんです。もしかしてその月橋家と、何か縁があるのかなと」
もし近江の月橋家と関係があるのなら、大海が名字を名乗る理由も分かる。それは行長の好奇心でしかないが、大海の気も紛れるかもしれない。吉継は特に咎めるつもりもなく、素直に頷いた。
佐吉に放り出される形で部屋に戻った大海は、小夜の様子に面を食らった。小夜はやけに上機嫌で、大海が戻るなり抱きついてきたのだ。
「おかえり、お姉ちゃん! ねぇ聞いて、今日小夜ね、すごく素敵な人に会ったの!」
「素敵な、人?」
「お姫様みたいに綺麗な髪の毛で、どこか儚げで、でも凛々しくて……お姉ちゃんも、きっと会ったら好きになると思う」