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戦国ラブドール
第8章 紅天狗(べにてんぐ)
「そういえばお二人とも、こんな悲しい恋の話は知りませんか? 織田ではなく、浅井が六角と対立して小競り合いしていた頃の、古い話なんですけどね」
駆け回る子ども達とすれ違い、呼び込みする商人の声を流しながら、ゆったりと語られる恋の物語。吉継以外の人間を怖がっていた小夜も、年頃の少女なら気になる話題に耳を傾けていた。
「この一体を取り仕切っていた豪商がおりまして、ちょうどそこの主人の息子に、いい縁談を持ち掛けた者があったんです。その縁談が纏まれば、家はますます栄える事間違いなし。主人は二つ返事で頷いたとか」
「武士は婚姻も自由に出来なくて大変だって言うけど、商家も大変なんだね。あたしは平民でよかったよ」
「大海さん、そんな冷たい反応しなくても。これからがいいところなんですから」
「小西さん、それから縁談はどうなったんですか?」
「お、小夜さんは気になります? 実はこの縁談、主人は一つだけ悩んでいたんです。この主人には二人息子がおりまして、長男は死んだ前妻の、次男は後妻の血を引いていたんです。此度の縁談、受けた方が家の跡取りになるのは明らか。どちらを跡取りにすべきか、主人は頭を抱えたそうです」