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戦国ラブドール
第8章 紅天狗(べにてんぐ)
「次男の悔しい気持ちは分からないでもないけど、やり口が陰険だね。気に入らないよ」
「長男は別れ際、娘さんに恋歌を残しました。それがまた切なくて泣けるんですが……なにせ私が生まれたか生まれてないかくらいに昔の話ですから、下の句をちょっと忘れてしまって」
「上の句はなんなんだい?」
「上の句は……『いくさ夜に かかる淡海の 月橋や』なんです」
行長から出た句に、姉妹は目を丸くする。月橋は、自分達の名字。偶然かと思えば、行長は二人を窺うように見つめた。
「その商家の名字が『月橋』でしてね。きっと下の句には何か大事な意味があるはずなんです。どうしても気になって、私この前父に手紙を出したんです。下の句を覚えてないかって」
「父に……って、あんたの父親なら知ってるのかい?」
「あれ、話してませんでしたっけ。私の父は堺じゃ結構儲けさせてもらってます、小西隆佐なんですよ。月橋家もうちと同じ薬売りで、この話も小さい頃父から聞かされたものなんです」
「へぇ……でも、小さい頃に語る寝物語にしちゃ、ちょいと暗くないかい?」