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戦国ラブドール
第8章 紅天狗(べにてんぐ)
 
「これは父にとっては恋物語じゃなくて、教訓なんですよ。同じ過ちを犯さないよう、肝に命じろとね」

「って事は、その月橋家は、今栄えちゃないのかい?」

「ええ、さすが察しがよろしいようで。次男には商才がなく、主人が隠居してからは瞬く間に潰れてしまったそうですよ。娘さんにも逃げられ、次男がどうなったかは誰も知らないそうです」

 恋物語にしろ教訓にしろ、小さな頃に聞かされるには後味の悪い話である。だがそれより気になるのは、『月橋』という家そのものだった。

 大海の父は薬売りとして財をなし、村の長よりも大きな家を持っていた。しかし親戚付き合いはなく、村では時折余所者に対するような態度を取られていた記憶が大海にはある。なにより、珍しい名字。偶然にしては、驚くほど一致していた。

「大海さん、どこかで和歌の下の句を聞いた事はありませんか? たとえば……あなたの父からとか」

 行長に訊かれて、大海は再び上の句を思い返す。だが記憶を辿っても、答えは出なかった。

「ああ、あまり気にせずに。古い話ですし、大海さん達がその月橋に関係があるかは分かりませんから」
 
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