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戦国ラブドール
第11章 苛立ちの半兵衛
佐吉はその言葉に俯き、目を逸らす。
「それは……それだけは、無理だ」
「文でも書いて、聞いてみれば? 今から可哀想な女の子を救うため、妾を作っても良いかって」
「そんな馬鹿を書ける人間が、この世のどこにいる! そんな事を冗談でも書いたら、その日のうちに――縁談は、破談だ」
佐吉の頭に浮かんだのは、丁寧な文字で書かれた文。来年に佐吉と婚姻が決まった、まだ顔も知らない婚約者の涙である。
「出来ないなら、中途半端に手を差し伸べるのはやめる事だね。いくら武士に側室は付きものと言っても、今の状況で腹の立たない女なんかいないよ。世話してくださった秀吉様の顔を潰してまで、大海を救いたいの?」
女の心境などまるで理解出来ない佐吉でも、今妾を迎える事の愚は分かる。婚姻は、家と家を結び権力を繋ぐもの、武士にとって、それは何より大事にしなければならない縁だ。佐吉の気まぐれで破談にする事など、絶対に許されないのだ。
「先に言っておくけど、じゃあ代わりに僕が身請けしろとか言われても断るからね。僕は彼女を長浜から追い出したいとは、全く思ってないから」