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戦国ラブドール
第12章 月の掛け橋
 






 秀吉が中国地方の征伐を任され、長浜に帰還してから数日。半兵衛との確執という不安を除けば、準備は概ね順調であった。そこへ水を差したのは、一枚の赤い布だった。

「これは、銅雀台の賦だな」

 秀吉は上座に座り、汚れた赤い布切れを広げ、殴り書きされた詩を読み上げる。それを聞くのは、高虎と孫六だった。

「二喬を東西に挟み、朝夕これともに楽しみたい――問題は、わざわざ赤い布に書いてよこした、という事か」

 それは侍女が庭の植木に結ばれたものを見つけ、不審に思い報告した品である。高虎は一つの心当たりを思い浮かべ、皮肉混じりに笑い飛ばした。

「赤い頭巾――はっ、まるで黄巾賊のようですね。そのくせ賊どころか曹操の真似事とは、恐れ多い」

 それは、明がまだ三国で競っていた時代。魏の主曹操はかねてより周瑜、そして呉の君主孫策の妻である『二喬』を欲しており、銅雀台にて二人をはべらかせたいと詩にした。それが、この『銅雀台の賦』である。

 これを聞いた周瑜は、妻を曹操に奪われてはなるものかと激怒し、大国である魏との戦――赤壁の戦いを決意した。つまり『銅雀台の賦』を送りつけてきたという事は、秀吉への宣戦布告である。
 
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