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戦国ラブドール
第13章 欲というもの
約束を口に出されては、虎之助もなすすべがない。行長の手を払うと、大海に一声掛けて部屋を出て行った。
「何かあったら叫べ、近くで待機している」
過保護な背中を見送ると、隆佐は頷き呟く。
「お嬢さんも、罪なお方で。わたしも若い頃は、あんな気持ちありましたわ」
「は、はい……」
「ま、デウスに誓って、間違いは犯さないと前置きしておきますよ。さて、さっそく本題に入りましょうか」
すると隆佐は大海の目をじっと見つめ、思い耽る。そして、小さな声で一人の男の名を呼んだ。
「見れば見るほど、九兵衛さんによく似ている」
九兵衛とは、大海の父親の名前。まだ何も話していないのに、名前を知っている。それは半信半疑だった父の半生が、本当である大きな証拠だった。
「わたしは若い頃、近江に知り合いがおりました。月橋九兵衛と言いましてな、思わず嫉妬してしまうほど才のある男で、いずれわたしは同業者として、この男と競い合うのだろうと思っていました」
「……あたしの父も、月橋九兵衛と言う名前です」
「言わば商売敵ですが、わたしは彼が嫌いではありませんでした。思えば、あれが好敵手という存在だったのだと思います」