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戦国ラブドール
第13章 欲というもの
遠い思い出に向ける表情は柔らかく、言葉に嘘は感じなかった。自分の父親と同じ年頃の男が見せる幼い影は、むしろ大海に好意を与えた。
「ですから、彼が物の分からない連中により近江を追われたと知った時は、残念でなりませんでした。彼を失った月橋家は案の定廃れてしまいましたが、わたしはずっと心に残るものがあったのです」
「それは、もしかして――」
「息子から聞きましたか? いくさ夜に かかる淡海の 月橋や……」
「上の句だけは聞きました。下の句は、昔話なので忘れたと言われましたが」
「忘れた? 下の句の方が大事だというのにまったくあの子は……おっと失礼、つい愚痴が出てしまいました」
隆佐は咳払いし切り替えると、話を戻す。
「常人は、それを恋の歌と思ったでしょう。事の顛末を知った者は、悲恋に涙し彼を惜しみました。ですが、わたしには分かります。彼のあの歌は、恋などという生温い舞台の者ではない。商人としての戦に投じる、戦う男の歌なのです」
「父が、そんな野心を持った人間には見えませんでしたが……それなら、能登で収まらず、もっと大きなところで暮らしていたのでは?」