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戦国ラブドール
第13章 欲というもの
「今は、野心を捨てた顔をして収まっているかもしれません。しかし、機を得たその時、必ず彼は動きます。ましてや自分の娘がさらわれ、力が必要な時ならね」
「……父は、どんな歌を詠んだんですか?」
「いくさ夜に かかる淡海の 月橋や 向かう岸辺に あらたまの日を――と」
恋の戦に負け郷里を追われた男が、暗い近淡海の湖面を前に、輝く明日へ想いを馳せる――素直に聞けば、そんな歌に思える。だが、戦が恋ではなく、商売であるのなら。隆佐の解釈も、的外れとは言い難かった。
「野心のない男なら、娘がこうは育たないでしょう。聞けばあなたは、学問を好み囲碁をたしなむそうですね? いつ返り咲いてもいいように、上質な教育を心掛けたように思えます。そして何より、その髪。常人には中々出来ない事をためらいなくやる、それは田舎に収まる者の発想ではありません」
大海は短い髪を摘み、考え込む。父が、隆佐の言う通り野心を秘めた男かは分からない。だが隆佐は、大海の父が件の月橋九兵衛だと、確信しているようだった。
「あなたと話して、決めました。あなたの父へ、こちらへ来るよう文を出しましょう」