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戦国ラブドール
第14章 海の向こうに
 
「それは……」

「愛だ恋だと言いながら、結局出世を前にすれば捨てるんでしょう? それとも、生涯彼女だけを妻と誓い、出世の道を遠ざけられるんですか?」

「俺は……でも、この気持ちは本気だ。どうするかは、その時話し合って決めればいいだろう。どうしても嫌だと言うなら、断っても――」

「嫌だなんて言う訳ないじゃないですか。私の見立てでは、何の文句も言わずに自ら実家へ帰ると思いますよ。彼女は賢い、ゆえに不幸になります。後に手放す運命なら、初めから手に入れない方が彼女のためでしょう」

 何も言い返せない虎之助へ、行長はさらに冷たい言葉を浴びせる。

「娶ると言うなら、そこまで考えて口にしなくてはなりません。あなたは『薬屋の息子』ではなく、武士という身分なのですから」

 いつも虎之助が口にする悪口を逆手に取った、皮肉の刃。虎之助は思わず拳を振り上げるが、その拳に行き場はない。舌打ちしそれを壁に叩きつけると、風呂の外へ出て行く。

「勝負は、どうするんです?」

「……お前の顔を、これ以上見ていたくない」

 蒸気がたちこめる風呂の中にいたのに、虎之助はちっとも温まっていない。それどころか寒気に襲われ、手足の先まで冷たかった。
 
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