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第3章 佐吉という男

　
　それはつまり、遊女のような真似をする必要はないという事である。大海が安堵したのも束の間、志麻は続けて絶望を言い渡した。

「しかし、あなた方は特別でもあります。小夜さん、あなたは秀吉様のお手つきですから、秀吉様だけは拒んではなりません。他の有象無象と同じようにはねのけたら、首が飛びますよ」

「はい……」

「大海さんは、市松さんと虎之助さんに渡されたとか。市松さんは秀吉様の従兄弟、虎之助さんも秀吉様のご親戚でいらっしゃいます。彼ら二人には、奉仕するように」

「あの……宴の時には、もう一人行長という人がいたのですが、その人は？」

「ああ、行長さんも確かに子飼いの一人ですね。しかし、秀吉様がもっとも大事にすべき方は身内である市松さんと虎之助さんでしょう。彼らが嫌だと言えば、行長さんに従う必要はありません」

　志麻は、あくまで大海の身は市松と虎之助が所有するものだという見解なのだろう。しかしあまりに行長へ冷たい態度に、大海は首を傾げた。

「――実はね、子飼いには派閥があるんです。秀吉様が尾張の頃から育てた市松さんや虎之助さんのような方と、近江に入ってから引き抜かれた方と」